本記事は、電電公社(現NTT、以下NTTで表記)や国際機関などで約30年間、英語を使って仕事をしてきた女性『栗崎由子(くりさき よしこ)』さんへのインタビュー記事です。
主なテーマは、海外の職場文化、女性として国際的な仕事に挑戦した経験、実務で通用する英語の身につけ方、そして日本企業が海外市場へ進出する必要性について。
栗崎さんは、かつての日本企業には「女性だから任せられない」という固定観念が強く残っていた一方、国際会議では年齢や性別に関係なく意見を聞いてもらえたと振り返ります。その経験を通じて、自分の考えを率直に述べられる環境の心地よさを知り、海外で働きたいと思うようになったといいます。
現在は、一般的な英文法や試験対策を教えるのではなく、「英語を使って仕事を動かせる人」を育てる活動をしています。英語を話せない原因は能力不足ではなく、英語の音を十分に聞いていないことだと指摘。まず繰り返し聞き、音やイントネーションを真似し、口が自然に動くまで反復することを重視しています。
また、人口減少によって日本市場が縮小するなか、中小企業も海外市場に目を向ける必要があると主張します。日本人や日本企業は品質の高い仕事をしているにもかかわらず、自分たちの強みを認識できず、安売りに陥りやすいと分析。自社の商品や技術を海外へ持っていき、現地の人が喜ぶ姿を見ることで、その価値を再発見してほしいと語っています。

海外で感じた日本との大きな違い
仕事の場における女性への固定観念が少ない
さくま海外では、どのような文化が特に好きでしたか?



日本よりも女性差別が少ないところです。
もちろん、差別がまったくないわけではありません。人種差別も女性差別もあります。人間は、ある意味ではそういうことをしてしまう生き物なのかもしれません。
ただ、仕事の場では、日本ほど「女性だからこれはできない」「女性にはこの仕事をさせてはいけない」といった強い思い込みがなかったように思います。そのため栗崎さんは、外国に行きたいと思ったのです。
NTTから日本代表として国際会議へ参加
通信に欠かせない国際標準化とは
通信は、Aという会社や国と、Bという会社や国がつながって初めて成立します。そのためには、細かな技術的条件について、各国や各社が合意しなければなりません。それが国際標準化です。
標準化を担う国際機関がジュネーブにあります。国際電気通信連合、ITUと呼ばれる機関です。
NTTは日本を代表する通信企業として、通信インフラに責任を持っています。そのため、国際会議へ必ず人を送り、標準化に関する議論へ参加していたのです。
社外の制度も探して自ら道を切り開いた
栗崎さんは以前、留学した経験があります。NTTの制度を使って留学させてもらいたかったのですが、2年連続で不合格になりました。当時は、女性が会社から留学した例はほとんどなかったと振り返ります。
それでも、栗崎さんは可能性を探しました。会社の制度だけに頼るのではなく、社外の奨学金なども探し、自ら関係者へ働きかけました。
いろいろな経緯があり、ようやくカナダに留学することができました。NTTには自分から休職をお願いしたそうです。
誰かが道を用意してくれるのを待つのではなく、自分で選択肢を探し、行動したことが留学の実現に繋がりました。
留学後は再びNTTへ復帰
留学を終えた後、栗崎さんはNTTへ戻りました。
一部には「会社の制度ではなく、自分で勝手に留学した」と受け取る人もいました。一方で、挑戦や行動を評価してくれる人もいました。
大企業には多様な考えを持つ人がいるため、一部の否定的な意見だけで会社全体を判断することはできないと振り返ります。
NTTから日本代表として国際会議へ参加
留学経験と英語力を評価され日本代表に
栗崎さんは留学経験があり、「英語ができる」ということで国際標準化の仕事に関わりました。当時の上司に推薦していただき、日本代表団の一員として国際会議に参加しました。この経験は非常に大きかったといいます。
会議には100カ国ほどから人が集まりました。女性のエンジニアも大勢いました。比較的年齢の高い女性もいましたが、皆さん生き生きと仕事をしているように見えました。
国際会議では、参加者がそれぞれ意見を出し合います。女性だから、あるいは年齢が若いからという理由で、意見を聞いてもらえないことはありませんでした。誰に対しても自分の考えを率直に述べることができました。
こういう社会にいたら、自分はどのような人間として生きられるだろうか。そう考え始めたことが、海外を目指す一つのきっかけになりました。
約100カ国の参加者が集まる環境で意見を交わした経験は、その後の働き方や人生観に大きな影響を与えました。
海外では女性エンジニアが活躍していた
当時の日本では、技術的な仕事を担当するのは男性という考え方が残っていました。NTTでも、女性エンジニアはまだ少ない時代でした。
ところが国際会議では、さまざまな年代の女性エンジニアが活躍していました。
女性たちが専門家として堂々と発言する姿を見たことは、栗崎さんにとって大きな刺激になりました。
「私は英語を教えません」に込められた意味
英文学ではなく英語を使った実務の専門家



現在は、経営者などに英語を教えるお仕事をされているのでしょうか?



私は「英語を教えません」という言葉をキャッチフレーズにしています。
栗崎さんの本業はエコノミストです。英文学や言語学の専門家ではありませんし、もともと英語が特別好きだったわけでもありません。英語を使って30年間仕事をしてきた経験が栗崎さんの圧倒的な強みです。
そのため、「英語で仕事をする」とはどういうことなのかを、実務経験として知っています。
栗崎さんは、特定の一つの国に腰を据えて仕事をしたわけではありません。国際機関や多国籍企業に勤務し、世界中の人々が同僚になる環境で働いてきました。
その経験を通じて、日本人が外国人と仕事をするときに、どのような問題に直面するのかを理解しました。
ですので栗崎さんは、英語を使って自分の意見をきちんと述べられる人、相手と意見を交換しながら仕事を進められる人を育てたいと思っています。今の日本には、そのような人材がとても必要です。
約30年間にわたり英語で仕事をしてきた
栗崎さんは約30年間、英語を使う職場で働いてきました。
一つの国だけで働くのではなく、国際機関や多国籍企業など、さまざまな国の人が同僚となる環境を経験しています。
そのため、日本人が外国人と仕事をするときに直面しやすい問題を、実体験として理解しています。
目指すのは英語で仕事を動かせる人材
英語学習の目的は、文法を暗記したり、難しい英文を読めるようになったりすることだけではありません。
ビジネスの場では自分の意見を英語で述べ、相手の意見を聞き、話し合いながら仕事を進める必要があります。
栗崎さんが育てたいのは、英語を知っている人ではなく、「英語を使って仕事を動かせる人」です。
日本人が英語を話せない本当の理由
能力不足ではなく英語を聞く経験が足りない



教科書に書かれている文章のように話す人は、実際の職場にはいません。仕事の状況も国ごとに異なるため、会話の内容はすべて違います。
栗崎さんが文法以上に大切だと考えているのは、耳のトレーニングです。
人間は、聞いたことのない音を口から出すことができません。多くの日本人が英語を話せないのは、頭が悪いからではありません。英語の音を十分に聞いた経験がないからです。
日本には日本語だけを話す人が大多数です。ですから、日常生活で英語を耳にする機会がほとんどありません。一方、日頃から聞いている日本語の音や表現なら、自然に真似できますよね。つまり、聞いたことがあるから口に出せるのです。
日本には日本語を話す人が多く、日常生活で英語を耳にする機会がほとんどありません。一方、日頃から聞いている日本語の音や表現なら、自然に真似できますよね。つまり、聞いたことがあるから口に出せるのです。
口が自然に動くまで音を真似する
そこで栗崎さんは、まず耳にたこができるくらい英語を繰り返し聞いてもらいます。次に、その音を口真似します。口が自動的に動くようになるまで、何度も真似するのです。そうすると、少しずつ英語を話せるようになります。
受講生の皆さんには、「英語を勉強するのをやめてください。英語を使ってください」と伝えています。



いわゆる「生きた英語」を学び、現地の人と直接会話ができるようにするということでしょうか。



「仕事が動くようにする」ことが目的です。
日常会話は簡単そうに聞こえますが、実は非常に難しいものです。日常会話は、すでに人間関係ができているから成立します。
相手がどこに住んでいるのか、どのような家族と暮らしているのか、週末にドライブをするのか、ゴルフをするのか、掃除をするのか。そういった背景を知って、初めて日常会話ができます。
初対面の人と、いきなり日常会話をするのは難しいでしょう。話題がありませんから。
しかし、仕事の話ならできます。自分の製品や仕事の進め方については説明できますよね。英語でも同じです。まずは、自分が一番よく知っていることから話してもらいます。それが仕事の話です。
栗崎さんは、英語を仕事を進めるための道具だと考えています。
シェイクスピアを読みたい人や、英語の試験でよい点を取りたい人には、それぞれ専門の先生がいます。栗崎さんのところへ来てほしいのは、英語を使って仕事を前へ動かしたい人です。



英語は、教えてもらって身につけるだけのものではありません。実際に話して、自分で使い方を見つけるものです。ライターも、書いて、書いて、書き続けて、少しずつうまくなりますよね。それと同じです。
音楽と英語学習



私は洋楽のバンドを聴くのが好きなのですが、音楽を使って英語を学ぶこともできますか。



音楽が好きな人は、比較的耳がよい場合が多いですね。そのため、英語のイントネーションや発音をうまく聞き取れることがあります。
たとえ意味が分からなくても、音を真似することはできます。子どもが親の口真似をするのと同じです。小さな子どもは言葉の意味を理解していなくても、大人の口癖や音を真似しますよね。英語も同じところから始めます。
まず、音の並びをそのまま覚えます。そして、自分が言いたい表現を丸ごと暗記し、実際に誰かへ言ってみるのです。
身体で覚えるときに、教科書を見ながら動作をし続けるわけではありません。実際にやることで覚えます。言葉も音楽も、その意味では共通しています。
日本企業が海外へ出る必要性
人口減少によって日本市場は縮小する



これから、仕事として新たに挑戦したいことはありますか?



現在取り組んでいるのは、海外市場へ出ていきたい中小企業の経営者を支援し、一緒に歩いていくことです。
日本には優秀な企業がたくさんあります。しかし、人口ピラミッドを見てください。日本は人口が減少しています。企業から見れば、市場が小さくなり、商品を買う人が減っていくということです。
国内だけで成長を続けるのは難しい
そう考えると、海外へ出ていく必要があります。国内だけで成長を続けるのは、次第に難しくなっています。在留外国人が多少増えたとしても、人口ピラミッドを見れば、それだけでは追いつかないことが分かります。そう考えると、海外へ出ていく必要があります。
日本企業は自分たちの価値にまだまだ気づいていない
日本企業には優れた商品や技術がある
一方で、日本の皆さんは、経営者であっても従業員であっても、とてもよい仕事をしています。日本人は真面目で、律儀で優しく、立派な人たちです。
しかし、自分たちがどれほどよい仕事をしているのかを、自分たち自身が一番理解していないのではないでしょうか。
海外の反応から自社の価値を再発見できる
自分では当たり前だと思っている商品や技術を外国へ持っていき、それを受け取った人が喜ぶ様子を見てほしいと、栗崎さんは語ります。
外国のものが駄目だと言っているわけではありません。外国にもよいものはたくさんあります。そのうえで、自分たちの特徴に磨きをかけ、海外へ持っていってほしい。それによって、相手にも日本のよさを伝えてほしいとも。
今の日本には、値下げ競争ばかりが残っているように見えます。皆がよい仕事をするため、自分の仕事の価値が目立たず、それを当たり前だと思ってしまうのです。
しかし、その状態が日本で働く人たちを不幸にして行くのではないでしょうか。
フィリピンなどの成長市場に注目する
日本とフィリピンでは平均年齢が大きく異なる
フィリピンを例に挙げましょう。フィリピンの平均年齢は25歳前後です。一方、日本は約49歳です。どちらの市場が今後伸びていくかは、この数字を見るだけでも分かりますよね。
フィリピンまでは飛行機で約4時間です。そのような市場へ、日本の商品やサービスをどんどん持っていってほしいと思います。
よい仕事をしている人には幸せになってほしい。だから、その仕事を喜んでくれる人がいる場所へ出ていってほしいのです。



私にできることは小さいかもしれません。しかし、同じように海外へ踏み出す人が少しずつ増えれば、日本社会でも、皆さんが上を向いて明るく働けるようになるのではないかと思っています。



私も同じように思います。
海外進出を最初から諦めない
「英語ができないから」と可能性を閉じない
中小企業の経営者に海外進出の話をすると、「自分たちには関係ない」「英語ができないから無理だ」という答えが返ってくることがあります。
しかし、英語が完璧でなければ海外で仕事ができないわけではありません。
まずは自社の強みや商品について、相手に伝えようとすることが出発点になります。
海外へ出たいのに相談相手がいない経営者も多い
海外市場に興味を持っていても、何から始めればよいのか分からない経営者は少なくありません。
社内に海外経験者がおらず、身近に相談できる専門家もいないため、行動に移せない場合があります。
栗崎さんは、そのような経営者に寄り添い、海外進出まで一緒に歩く支援を行っています。
小さな一歩が日本社会を変えていく
一社の挑戦だけで、日本全体がすぐに変わるわけではありません。
小さな行動の積み重ねが、日本の企業や社会を前向きに変える可能性があります。
また、以下の動画で「日本という、心地よい鳥籠の中で仕事をしていたことに気が付きましたね。」というメッセージが印象的でした。
グローバルな視点で自分と仕事を見直す
海外を知るとニュースの見方も変わる



私自身、海外の事情をあまり詳しく知らないので、とても参考になりました。



少し意識を変えるだけで、新聞を読むときの見方も変わります。そうやって少しずつ学んでいく。それが自分自身の成長なのではないでしょうか。



私もBNIというビジネスコミュニティのメンバーで、さまざまな方から多くのことを学ばせていただきました。



学びとは、自分が持っていないものを誰かから受け取ることです。自分が持っていないものを、別の人は必ず持っています。
もう少しグローバルな視点を持ち、「日本では当たり前でも、海外から見ると価値のあるものは何か」という見方をするとよいと思います。



なるほど。大切なのは見方、なのですね。
栗崎さんの活動が気になる方は、以下の動画でもご覧いただけます。
手書きで描かれたムービーと、栗崎さんのナレーションを融合されたエピソードが観られます。
まとめ
今回のインタビューで語られた重要なメッセージは、「英語は勉強するだけのものではなく、仕事を動かすために使うもの」ということです。
英語を話せない原因を才能の不足だと考える必要はありません。まずは英語の音を繰り返し聞き、口真似をし、自分がよく知っている仕事の話から実際に使うことが大切です。
また、人口減少によって国内市場が縮小するなか、日本企業には海外へ目を向けることが求められています。
日本企業が当たり前に提供している品質やサービスには、海外で高く評価される可能性があります。
英語が完璧ではないことや、会社の規模が小さいことを理由に可能性を閉じるのではなく、まずは自分たちの仕事の価値を見つめ直す。そのうえで、価値を喜んで受け取ってくれる人がいる場所へ、一歩を踏み出すことが重要です。
| 会社名(または屋号) | EJD |
| 代表者名 | 栗崎由子 |
| 事業内容 | ビジネス英語(海外進出支援) |
| 設立年 | 2019年 |
| サイトURL | https://geneva-kurisaki.net/profile |
| Instagram | https://www.instagram.com/yoshikokurisaki/ https://www.facebook.com/Yoshiko.Geneva/?locale=ja_JP |


